「パズドラZ オルタナティブ」第7話
「シロップーーーっ!!!!!!」
私はそう叫ぶと同時に、光線に貫かれて倒れるシロップの方へ駆け寄り、体勢を崩す彼を両腕で抱きかかえた。
貫かれた彼の胸部からは、赤く鮮やかな血がドクドクと脈打ちながら流れ出していた。
光線が放たれたであろう前方に顔を向けると、そこには巨大な龍がいた。
黒い鱗に覆われた表皮に、青白いツメが不気味に輝く。顔には四つの眼が付いており、背中には赤く鋭い羽が幾三にも連なっていた。
四肢があり腕も足も凶悪なほど大きい。尻尾は赤い骨のようなもので覆われている。
禍々しいその姿を見て、体が恐怖で動かなくなってしまった。口すら動かせない。
「な…アーク…お前……なんで、こんなことを…」
ごふっ、と血を吐きながらシロップが今にもこと切れそうな声で呟いた。
「あっ!シロップ、喋っちゃダメ!!」
このままではシロップが死んでしまう。そう思い咄嗟に声が出たのも束の間。
目の前にいる巨大な龍が言葉を発した。
「悪いなゼルクレア。頼まれたんだよ、一回お前を殺してくれってな。」
何を、言ってるんだ…?そう思った矢先にシロップが答えた。
「何を、言って…。そんなの…」
「無理、だろ?まぁその通りなんだが。どうにも納得してもらえなくてな。
死を司る天空龍なら命天龍のお前すら殺せるんじゃないか、って言って聞かなかったんだよ。」
全く思考が追い付かない。死を司る天空龍?命天龍?
まさかこの禍々しい龍とシロップは天空龍だと言うの?
天空龍は、かつてこの世界とそこに住まうモンスターを作り出し、今もなおこの世界を管理し続けている統治者だ。
歴史の授業では、彼らは空に住んでいて地上にはまず降りてこないと言っていたし、互いに争いあったという話もなかったはずだ。
じゃあなんでここにいるの?シロップは何者なの?何で死天龍は仲間を殺そうとしてるの?
私は完全に頭がパンクしてしまった。
そうして固まっていると、死を司る天空龍なる何者かが私の方を見た。
そして呟く。
「あっ?そういやなんだその赤いのは。」
見られるだけで全身が硬直した。あまりの恐ろしさに目を合わせることすら出来ない。
「ただの民草か。悪いが、こいつを見られたからには、ちょっと黙っててもらわないといけないな。」
私も、殺される…?体の震えが止まらなくなった。
そう怯えている私の肩に、シロップが手を置いた。
「大丈夫だよ…メラゴン…」
「えっ…?」
そう言うシロップの胸を見ると、何と傷口が少しずつ塞がっていっていた。
それに合わせて血液もシロップの体に戻っていっていた。まるで逆再生のビデオのようだ。
ここまでの治癒術は見たことがない。というかもはや治癒ではなく再生と言った方が正しいだろう。
確かにこれではシロップを殺すのは不可能と言う他ない。
そうして完全に傷が塞がると、シロップは私の腕から離れて、少しよろけながら立ち上がった。
そして死天龍に話しかける。
「彼女は僕の大切な友人だ。手を出すことは許さない。」
「…それならそいつを始末する訳にもいかないか、仕方ない。まあ、俺も誰かが死ぬのは嫌いだからいいんだが。」
「僕が目的だったんだろ。用が済んだなら今すぐ立ち去れ。アークヴェルザ!」
「そうだな。依頼が無理なのもこれで納得してもらえるだろうし、ここにいる理由もないか。
だがゼルクレア、お前、コイツに自分の正体伝えてないのか?どうもフリーズしてるみたいだが。」
その質問に、シロップの表情が少し強張る。
「…それはアークには関係無いだろ。早く行け!」
シロップがそう強く言うと、死天龍は少しだけ下がり、一瞬で消えてしまった。
先ほどまでその巨大な龍がいた場所には、もうただの青空しか広がっていなかった。
全く訳が分からない。
私はシロップに聞きたいことが山ほどあった。
何とか立ち上がり、彼の方へ歩いていった。
だが次の瞬間、シロップはその場に崩れ落ちた。
私は慌てて駆け寄った。
「シロップ?シロップ!?」
シロップはぐったりとした様子だった。彼の頭を支えて何度も声を掛けたが、結局目を覚まさなかった。