ずっと真夜中でいいのに。『ばかじゃないのに』MV (ZUTOMAYO - Stay Foolish) - YouTube
これは私がまだ20歳になる前の話
初めて恋人が出来た青い夏の日
ぎこちなく手を繋いで歩いた帰り道が、今も鮮明に焼き付いて頭から離れない
線香の香りが、畳に染み付いている
扇風機に嘆いても、作業着を剥ぎ取っても、君の鮮やかな仕草はいつまでも忘れられないみたい
「君のことが好き」
そう言っておけば良かったのに
扇風機には叫べる私の声は、どうして肝心な時に出ないのかな
ばかじゃないのに
私は、君を思い返す日々で過ごしていけるかな?
まだ惹かれるその温もりを抱いて、静かに目を閉じた
ーGAME OVERー
夏の帰り道
「これから、どうする?」
「ね、どうしよう、分かんないや」
幾度繰り返したか分からない、曖昧な返事をする。彼はため息をついて、私の隣に並んで歩く。
先のことばかり気にする彼と、それに遅れを取る私。二人の歩調は乱れていくばかりで、彼はどんどん前へ進んでしまう。私は何とか付いていくので精一杯。
何かを決めるのも、先のことを考えるのも怖いんだもの。いつか別れてしまうかもしれないし、別れずとも苦労があるかもしれない。
何もかも曖昧にして、今日の晩御飯のことだけ考えて生きていければ、それでいいじゃん。
ふと、先を歩いていた彼が振り返る。
「なあ、俺のこと、好き?」
「…そうじゃなかったら、付き合ってないでしょ?」
「そう、だよな。」
いつも気にしてる。高校生の付き合いが続くことなんてそうそう無いのに。
この先いつか別れてしまうなら、いっそ今さよならを伝えてしまった方がいいかもしれない。
一人になった帰り道、靴に入った石に気づきながらも、歩くのを止められなかった。
ーGAME OVERー
→CONTINUE?
「あれ?」
気が付いたら、懐かしい制服を着て通学路を歩いていた。隣には、彼がいる。
「?…どうした?」
「あ、いや、何でもない。」
これはどういうことだろう。夢?
小指を見ると、赤い糸が結ばれていた。そして彼の小指にも赤い糸が結ばれている。
しかし、その糸の先は途切れているように見える。
辿ろうとしても、どうにも彼の小指には辿り着けない。
しかめっ面をしながら赤い糸の行き先を探していると、彼が不意に質問をしてきた。
「これから、どうする?」
「えっ、何を?」
「だから、どこ行くかだよ」
こんな会話したかな、そう思いながら返事をする。
「普通に帰れば良くない?」
「…そっか、そうだな。」
ぎこちない足取りで、駅へ向かって歩き出す。
ああ、そうか。ようやく思い出した。
「なあ、久しぶりに公園行こうよ。」
「別にいいけど、ちょっとだけね。」
電車から降りて、彼と一緒によく遊んでいた公園へ行った。
二人で並んでブランコに座る。
赤い糸の先が見えない理由に、ようやく気付いた。
私は、ずっと紛らわしていた。
自分の気持ちも、彼との関係性も。
彼の気持ちは嬉しくて、でもそれがいつか無くなってしまうのも、私じゃない誰かに向いてしまうのも、本当は怖かった。
そして、自分が彼の好意を受けとるに相応しい人物だとも思えなかった。
自分よりも相応しい人がいるのではないかと。
だから、こうしてぶっきらぼうに突っぱねていたんだった。冷たくしてしまえば、傷つかずに済むから。
彼が不意に立ち上がった。
「俺、もう帰るね、じゃあな。」
そうして、彼は立ち去っていった。
もう、赤い糸は結ばれない。
本当は君と同じ気持ちだと、好きだったと伝える覚悟があれば、こんな結末を変えられたのかな。
私は、溢れる涙を止めることが出来なかった。
ーGAME OVERー
→CONTINUE.
懐かしい高校時代のベッドに顔を埋めていると、不意に小指が引っ張られるような感覚を感じた。
指先を見ると、赤い糸がドアの向こうまで伸びていた。
「さっきまで途切れてたのに…」
その先はどこまで続いてるのか、その好奇心を押さえきれず、私はその糸の先を辿り始めた。
夢だからか、空の色はうっすらと明るい。夕暮れ前の透明の空だった。
もしかしたら、彼にもう一度会えるかもしれない。
この赤い糸は、彼に繋がっているかもしれない。
彼に会いたい。本当の気持ちを伝えたい。
その一心だった。
君と遊んだ桃鉄、畳んだ洋服の香り。ありきたりだろうけど、私にとってはどれもかけがえのない思い出だったんだ。
通学路を通り、駅を通り、知らない町を通り、見知らぬ廃墟へと入って行った。
廃墟の一室の扉を開ける。
そこには彼がいた。
小指に結び付いた赤い糸は、やはり彼の指に繋がっている。
「どうして、ここに?」
彼が不思議そうに質問をした。
「赤い糸を辿ってきたの。」
「そっか。俺もだよ。」
お互いの指先に結び付いた赤い糸を見つめる。
「これ、運命の赤い糸?ってやつかな。」
「うん、そうだと思う」
「ははっ、こんなこと、本当にあるんだな…」
彼は嬉しいような、困惑したような顔をした。
私は、そんな彼を真っ直ぐ見て、口を開いた。
「私、伝えたいことがあるんだ。」
「何だよ、改まって。」
深呼吸をして、彼を真っ直ぐ見る。
「私も、君のことが好き」
不意を付かれたためか、彼が驚いた顔をした。
しかし、その直後に安堵したような表情を浮かべた。
「そっか、良かった。」
彼はそっぽを向いた。
「ふふっ、何で泣きそうになってるの?」
「いや、だって。最近全然そんな素振り見せてなかったじゃん。嫌われたかと思ってたよ。」
嬉しそうにする彼を見て、私も嬉しくなった。
ようやく本当の気持ちを伝えられた。
同じ気持ちであることを確かめ合うように、互いに見つめ合った。
「帰ろう。」
彼から手を差し伸べられた。
その顔は、喜びに満ちていた。その顔を見て、私も嬉しくなる。
その手をとろうと、私も手を差し出す。
「パチンっ」
不意にハサミの音がした。
どこからだろう、と辺りを見渡した。
「えっ?」
目の前にいたのは、私。
手にはハサミが握られ、赤い糸は絶ちきられている。
ああ、そうか。
これは夢だった。
私は自分で、この赤い糸を切ったのだった。
ーGAME CLEARー
目が覚めると、もう外は明るかった。窓から朝の日差しが差し込んでいる。
過去は変えられない。
だけど、確かに、思いは伝えられた。
ありがとう。
私は、君を思い返す日々で過ごしていける。
引き摺っていた温もりは確信に変わり、私の心を温める。
剥ぎ取った作業着を拾い上げて、私は今日を歩み始めた。
To be continued.