無題 (パスドラZ 創作小説)第一話
「私の将来の夢は、カッコいい騎士になって、沢山のモンスターたちを守ることです!そのために、勉強も、武術も精一杯頑張りたいです!」
これが小学生3年生の頃の私。
今の私は中学2年生。年頃の女の子である。
様々なモンスターが暮らすこの世界では、ドラゴンの私の見た目は比較的いかついと言える。
肌も赤色に近い褐色だし、牙やツメも小さくは無いので、決して可愛い見た目とは言い難い。
まあ騎手だったらむしろこれくらい怖い見た目の方がいいのだ、といつも自分に言い聞かせているが…
その騎士になると誓った小学3年生の時から毎日猛特訓を重ねてはいるが、未だにめぼしい成果はない。
まずは真器と呼ばれる武器を自分で作れるようにならなきゃ話にならないのに、私はそのスタートラインにすら立てていないのだ。
同い年の子たちはもう、ほとんどみんな作れるようになっているにも関わらず。やっぱり私には才能が無いのかなあ…
静かに、しかし着実に近づいてくる焦りを感じながら、私は何気ない日常を過ごしていた。
いつものように教室のドアを開け、自分の席へ付く。チャイムギリギリだ。
窓から入る朝日の光で教室は明るく照らされており、春の暖かな陽気が感じられる。
そして予鈴と共に担任の先生がドアをガラっと開けて入ってきた。
「みんなおはよう!!今日も良い運動日和だな!」
担任のグリムロック先生。
相変わらず図体と同じく声がでかい。ミュータントのモンスターで男、体全身が岩で出来ており、いつ見てもゴツゴツしている。強そうな見た目と昔気質な性格はまさしく体育会系だ。
「以前にも告知していたが、今日から私たちのクラスに加わる転校生を紹介するぞ!入ってこい!」
そういえば今日は転校生が来るんだった。すっかり忘れていた。
担任のグリムロック先生の声を聞いて入ってきたのは、おもちのように白くて丸みのあるドラゴンだった。大きな耳と目が特徴的で、私よりもずっと可愛い。
「初めまして。シロップと申します。仲良くしてもらえると嬉しいです。」
その声は、男子特有の変声期前の少し高めの声だった。
背筋よくハキハキとした喋り方で、育ちの良さを思わせる。まさしく優等生と呼ぶに相応しい。
だが、それと同時に何かただならぬ気配を感じた。どことなく私たちと根本から違うような何かだ。だが、言葉に出来ない…
「みんな、シロップと仲良くしてくれよ!
そうしたら… 窓側の席が空いてるな!そこに座ってくれ!」
グリムロック先生の朝のホームルームが終わるや否や、瞬く間にクラスメートたちがシロップの机周りに群がった。
「なあシロップ、お前どこから来たんだ!?ここらへんの奴じゃないよな?」
「すごくカッコいいよね~シロップ君!もしかして古い家系の生まれ?」
「好きなものとかある?私はね~」
男女問わずひっきりなしにくる質問のマシンガンに、シロップも少し慌てているようだった。
あたふたしている。
「すごい人気ですね、シロップさん」
聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
「何だかシロップさんって、不思議な魅力があるように感じます。」
そう言いながら私の隣に歩み寄ってきたのは、モリゴンちゃん。
私の小学生からの女友達だ。相変わらず気品がある。
ドラゴンで肌の色は緑色、頭にある切り株のようなツノと小さな瞳が特徴だ。
私と同じドラゴンのはずなのに、どうしてこうも印象が違うのか…
そう思いながら私はモリゴンちゃんへ言葉を返した。
「そうだね、私も少しそう思ったよ。」
「あら、メラゴンさんもですか?」
「うん。何となく、だけどね。」
モリゴンちゃんも、もしかしたら感じていたのかもしれない。優等生の顔に隠された、シロップの底知れない何かを。
「挨拶に行きますか?」
「行きたいんだけど、あの様子だとしばらく無理そうかな?」
私たちの視線の先には、依然としてシロップの机周りに群がるモンスターたちの姿があった。
「そうですね。あれだとお話するのだけでも難しいかもしれませんし、後にしましょうか。」
結局、授業開始のチャイムが鳴るまで、シロップへの怒涛の質問ラッシュは続き、私は挨拶すらすることが出来なかった。
話しかけられなかったのは残念だったが、人混みから解放されたシロップのやつれた顔を見れて、私は少しだけ嬉しくなった。
優等生の仮面に隠されたシロップの素顔を少しだけ覗けたような気がしたからだ。
そう思ったのも束の間。
「はあぁ~…」
授業1時間目。
よりにもよって今日は体育。
私の嫌いな真器操術の授業だ。
未だに真器を作れない私にとっては地獄のような時間である。
陰鬱な気持ちのままグラウンドへと集合する。
「元気出して下さい、メラゴンさん。諦めなければきっと上手く行きますよ!」
「ありがとう、モリゴンちゃん…」
この授業になると毎回モリゴンちゃんが慰めてくれる。本当に優しい友人だ。
クラスのみんなは私を除いてほぼ全員が真器を作れている。こうなってくると流石に私もいたたまれい。
私たちクラスメイトをグラウンド中央へ集めたグリムロック先生が叫んだ。体育教師でもあり担任でもある彼の声に、みんな聞き飽きたような顔をしている。
「よし!全員集まったな!それじゃ各自真器を生成してくれ!
大気中にあるドロップのエネルギーを集め、自分の内側に秘めた心の形を意識するように!
そうすれば上手く真器を作れるぞ!」
もう何百回聞いたか分からない担任の言葉の通りに意識しても、一向に私は真器を作ることが出来なかった。
まず大気中のエネルギーとか見えないっつーの!どう集めりゃいいの?
そんな私を余所にみんなはどんどん真器を作成していく。
銃、剣、鎌、弓…
みんなはそれぞれの個性や特徴を反映した武器を次々と生み出していく。
私たちモンスターは、大気中のドロップと呼ばれるエネルギーを使って武器を0から作り出すことが出来る。それが真器だ。
心の形を表していると言われており、何一つとして同じものは存在しない…らしい。
今のところこのクラスでも被りは無さそうだ。
そんなことを考えながら、真器を作れず呆然と立ち尽くしている私に、担任の先生が話しかけた。
「メラゴン、まだ真器を作るのは難しそうか?」
「はい… 残念ながら…」
「そうか… だが諦めなければ必ず出来るようになるぞ!それは今日かもしれん!
好きな場所でいいから、メラゴンは真器生成に取り組んでくれ。困ったらいつでも呼んでくれていいからな!」
そういうと先生はクラスメイトの方へ戻っていった。
性格の全く違うモリゴンちゃんと担任のグリムロック先生が「諦めなければきっと出来る」と同じセリフを言っていることに内心気になりつつも、
私はいつものようにグラウンドの端っこで一人真器生成に取り組んだ。
グラウンドの中央では、クラスのみんなが各々の真器を楽しそうに扱っている。
この時間を過ごす度に、私は自分の才能の無さを痛感する。どうして私はみんなと同じことすら出来ないのだろうか。
飽きるほど繰り返した自問自答をしながら、私は真器生成に励む。
だか、どうやっても私の手にその武器が握られることはなく、ただ時間だけが過ぎていった。
悔しさで噛み締めている奥歯が砕けそうだ。
「真器が作れなくてもなれる職業は沢山あるから、そこから何をしたいか考えてみたら?」
真器を作れない度にこの言葉が頭をよぎる。
もう何人のモンスターに言われたか忘れてしまった。
この無力感に襲われる度に、私は自分の夢を諦めそうになる。
でも私がなりたいのはみんなを守る騎士であり、それ以外の選択肢なんて無い。
だがそうは言っても現実に、私は真器を作れない。
真器を作れることは騎士になるための絶対条件なのに。
「悔しいな…」
騎士になりたいなんて思わなければ、こんな思いはしなかったのだろうか。
今の私は間違っているのだろうか。
そんな風に思っていた私の肩を、誰かが叩いた。
「君は一緒に練習しないの?」