「君は一緒に練習しないの?」
そこに立っていたのは、転校生のシロップだった。
私が真器を作れないことを知っているクラスのみんなは、私に憐れみの眼差しを向けるが、彼の瞳には純粋な好奇心しか映っていなかった。
そのせいか、シロップに私のことを話すのにそこまでの抵抗を感じなかった。
「うん、実は私、真器が作れないんだ。だから真器操術の授業は、基本見学なの。」
「そうだったんだね。」
真器を作れない。そのことを伝えると相手は決まって同じリアクションをする。
憐憫か応援だ。
だが、シロップは違った。
「それはそういう体質だからとかなの?」
「いや、お父さんもお母さんも作れるから、そういう訳じゃないとは思う。だから頑張ってるんだけど、上手くいかなくて。」
「じゃあさ、もし僕で良かったら、真器を作るコツ教えよっか?」
「えっ?」
一度も見たことのない反応だった。
大体のモンスターは、私が真器を作れないと聞くと申し訳なさそうにした。
そして次には決まって「頑張ってね」とその場しのぎのセリフだけを残して去っていった。
中には私のことをバカにする者や、モリゴンちゃんのように傍らでずっと応援し続けてくれる者もいた。
だけど、私に手を差し伸べてくれるモンスターは、誰一人としていなかった。
だからこそ私は、シロップの侮蔑も嘲笑もない純粋な眼と、差し伸べられたその手に、ひどく心を打たれてしまった。
「あっメラゴン、涙が…」
「えっ、あっ…」
気が付いたら私の片目から一筋の涙が零れていた。
シロップがひどく心配そうな顔をする。
「大丈夫!?ごめん、何かひどいこと言っちゃったかな?」
「ごめん、違うの。ただ、嬉しくて…」
気が付いたら両目から涙が溢れて止まらなくなっていた。
シロップは教室でみんなに囲まれていた時よりもずっと、あたふたと慌てている。
そんな転校生の姿がおかしくて、私は思わず笑ってしまう。
「ふふっ…!」
「あれ?今度は何かおかしかったかな?」
今度は不安そうな顔をしている。
さっきまで底知れない完璧な優等生だと思っていたのに、今はもうただ普通の優しい同級生にしか思えない。
私は呼吸を整えて、シロップに話しかけた。
「ごめんね取り乱しちゃって。でももう大丈夫!」
「それなら良かったよ。安心した。」
「それでシロップ、さっきの話なんだけどさ、もし良かったら、私に真器の作り方を教えてくれないかな?」
「うん、もちろん!」
私の返事を聞いたシロップの顔は、もうすっかり笑顔になっていた。
そして、コロコロと表情を変える彼に、私はすっかり心を許してしまっていた。
なんだかシロップと近づけたような、そんな気がした矢先、
グラウンドの方から一体のドラゴンが近づいてきた。
「そんな奴にかまうなよ、転校生!」