だあすう日記

初めまして。まったり生きてます。

交錯するひと夏の奇妙な物語「海辺のカフカ上、下」感想

「だから仮説は仮説としてまだ機能している。」

 

 

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この本を読もうと思ったきっかけ

今年の2月から読書を始めてもう5か月を過ぎる頃

「せっかく読書に慣れてきたから、何か難しめの本を読んでみたいな」
と思い立ち、見つけたのがこの本だった。

一時期良く見ていたにゃんたこというYouTuberがよく読んでいた本の著者、

それが村上春樹

著者名からしてもう難しそうだったので今回はこの方の本を読んでみることにした。

その中で、以前読書会で紹介されていたこの「海辺のカフカ」を今回は選んだのだった。この本は自分が生まれた年と同じ年にこの世界に出版されたらしく、こういう時は運命を感じずにはいられない。

 

 

感想

ここまで奇怪で不思議で面白い本というのを初めて見た。

まず物語の展開から面白い。「家出少年の田村カフカくん」のパートと「おじさんのナカタさん」の話が一章ずつ交互に展開されていくのだが、ちょうど先の展開が気になる所でもう一方のパートに進んでしまう。そのため、先が気になって物語を読む手が止まらなくなる。

 

そして肝心の内容だが本当に面白い。
ストーリーラインがしっかりとしていて、主人公に訪れる様々な困難や出来事の一つ一つが見ていて新鮮だった。その鮮やかな物語描写はぜひとも本作を直接読んで体験してみて欲しい。

また登場人物たちなのだが、その生い立ちや言動と行動、また考え方というのが実に多種多様であり、彼らの何気無い会話がとても不可思議で興味を惹かれる。

 

様々な言葉が印象に残ったが、その中で特に紹介したいものが二つある。

 

上巻で大島さんが言っていた言葉「男男、男女、女女」

もともと人間は二人分の構成材料でひとりが作られていたが、それがあるとき半分に割られてしまったと。プラトンの「饗宴」という話からの引用らしい。

ここでとても衝撃を感じたのは、同性愛もこの概念では受け入れられるということだ。僕自身が大島さんのように性的マイノリティに関係した人間であるため、この考え方に少し救われたような気がした。それは異常ではなく、平常なのだと。

 

また下巻でサダさんが言っていた言葉「本当の答えはことばにできない」

これはこの物語の根幹にあるような気がした。この本は全体的に物語がかなり目まぐるしいスピードで進んでいくのだが、その肝心な部分、つまり物語の中心であり結論にもなっている「本当の答え」というのを著者は説明してくれない。

カフカくんの父親はどうなったのか、空から魚が降ってくるのはどうしてか、ナカタさんの影が半分の濃さしかないのはなぜなのか、なぜ四国の森の中に奇妙な集落があるのか、入り口とは何なのか、星野青年はどうして猫と喋れるようになったのか。

ハッキリ言って、この本の謎は何一つとして明らかにされていない。全てがメタファーであり、全てが重要なことではないからかもしれない。

一方で答えをことばにしても、正しく伝えられない。だからこそ著者はあえて謎を解き明かさなかったのかなとも感じた。

 

そしてこの物語は、読者が物語を補完する余地を残している。

「だから仮説は仮説としてまだ機能している」

この言葉は下巻の、カフカくんと佐伯さんとの会話で登場した言葉だ。

まさしくこれは、この物語に出てくる謎たちに対して僕たち読者が抱く仮説を肯定してくれる言葉そのものではないかと感じた。

この物語の謎の一つとなる、カフカくんの母親は誰なのかという問題。一つには佐伯さんという女性がそうではないかと考えられる描写が物語の中に登場するのだが、実は明確にそうであるとは一言も書かれていない。

登場人物たちは本当は分かっているのだが、それを言葉にしようとしない。なぜなら「正しい答えはことばにできない」からだ。だからこそ謎は謎のままこの物語で機能し続ける。

明確な反証がこの物語には無い。そのためどれだけ僕たち読者が仮説を立てようとも、それは仮説として機能し続けることが出来るのだ。

この考察の余地補完の余地こそ、物語のもつ素晴らしい機能であり、物語を楽しむ者の醍醐味なのかもしれないなと感じた。

 

 

あとがき

ここまで読んで下さりありがとうございました!

僕自身、改めて読書をしていて本当に良かったなと感じました。ここまで独特な世界観で惹きつけられる作品が世界にあったことを知れて嬉しかったです。

淡々と綴られる克明な性的描写、抽象的な概念で繰り広げられる会話シーン、謎を謎のまま残し重要な問題のみに焦点を当てるカメラワーク。

村上春樹という著者の凄まじさを片鱗ではありますが、見ることが出来た気がします。

物語自体も本当に面白くて、読んでいて楽しかったです。多分ここまで面白くなければ上下巻という長編大作を読み切ることは出来なかったと思います。

 

また、自分が何年か経ってもまだ読書を続けていたら、もう一度読んでみてこの物語から受ける印象がどのように変わっているかを知りたいなとも感じました。

ひと夏の家出物語。まだ読んでいない人はぜひ読んでみて下さい。

最後までありがとうございました!!